アドベンチャーワールドのパンダ返還──日本が1億円も払って30年間借り続けているワケ

1.なぜ今、パンダ返還が注目されているのか

1-1.日本で育った「家族」を返すという現実

2025年6月末、アドベンチャーワールドで暮らす4頭のジャイアントパンダが中国へ返還されることになりました。 対象となるのは、24歳になる母親パンダ「良浜(らうひん)」と、その娘にあたる「結浜(ゆいひん)」「彩浜(さいひん)」「楓浜(ふうひん)」の4頭です。

いずれも日本国内で生まれ、多くの来園者に親しまれてきたパンダたちです。 とくに「良浜」は、17頭の子どもを育てた実績があり、アドベンチャーワールドにとっては象徴的な存在とも言えます。

1-2.なぜ今「返還」が話題になるのか

今回の返還は、1994年から続いてきた中国との「ジャイアントパンダ保護繁殖研究」協定の契約満了にともなうものとされています。

このタイミングで話題になっている背景には、返還の事実だけでなく、そこに対する世間の“温度差”があります。

SNSなどでは「なぜ返す必要があるの?」「日本で育ったのに…」という声も上がっており、ニュースコメント欄にも多くの反応が寄せられています。 一方で、返還が当然の流れとして受け止められている空気もあり、違和感があっても疑問を口にする機会は少ないのが現実です。

このように、今回の返還報道は「感情」と「制度」の間にあるギャップを改めて浮かび上がらせました。

2.年間1億円──“パンダレンタル契約”の仕組みとは

2-1.契約の概要と基本構造

日本の動物園にいるパンダは、すべて中国との契約によって「貸し出されている」存在です。 いわゆる“パンダレンタル契約”には、次のような特徴があります。

  • 契約は中国の研究機関と結ばれ、年間1億円前後のレンタル料が発生します
  • 所有権は中国側にあり、日本側は”飼育”ではなく”借用”という立場です
  • 国内で生まれた子パンダも中国の所有とされ、一定年齢での返還が義務づけられています

2-2.表向きの名目は「共同研究」

これはあくまで「種の保存・保護」を目的とした共同研究という建て付けですが、実態としては明らかに商業的な性格を帯びています。

アドベンチャーワールドも1994年からこの契約の枠組みの中でパンダの飼育・繁殖を行い、国内最多の20頭のパンダを育て上げた実績を持っています。

しかし、それでも所有権は中国にあり、契約満了にともなって返還が義務づけられるのです。

3.それでも日本がパンダを借り続けた3つの理由

3-1.経済効果が大きすぎる

パンダは動物園の集客装置として圧倒的な存在です。 上野動物園ではパンダの赤ちゃん誕生をきっかけに来園者数が跳ね上がり、 地元経済も含めた経済波及効果は50億円以上とする試算もあります。

アドベンチャーワールドも例外ではなく、白浜観光との相乗効果によって、 関西圏以外からの来場者も多数呼び込むことに成功してきました。

3-2.国民的な人気と“かわいい”文化

日本では1972年に上野動物園に初めてパンダが来て以来、 パンダは“かわいい動物”の代名詞のように扱われてきました。

特に赤ちゃんパンダの誕生となれば連日メディアが報道し、 グッズや写真集も爆発的に売れるなど、アイドル的な存在でもあります。

3-3.中国との関係維持という“外交的配慮”

パンダはもともと「日中友好の象徴」として贈られた歴史を持つ動物です。 現在ではレンタル契約という形ですが、その意味合いは今も変わっていません。

日本側が契約を更新し続けてきたのは、単なる集客や人気だけでなく、 日中関係における“潤滑油”としての役割を担っている側面もあるのです。

4.“かわいい”だけでは語れない違和感

4-1.生まれたのに「返す」ことへの疑問

これまで日本は「かわいいから」「人気があるから」という理由で、 あまり深く考えることなく、パンダを“借り続ける”という構造を受け入れてきたように見えます。

しかし、国内で生まれ育ったパンダまでもが返還対象となる今回の出来事をきっかけに、 「そもそもこれは誰のための契約なのか?」という疑問が徐々に広がりつつあります。

4-2.対等性のない構造

また、レンタル料はすべて中国側への支払いであり、 所有権も子どももすべて相手国のものという構造には、 果たして対等性があるのかという指摘も見受けられます。

一部の人々が感じていた違和感は、 単なる感情ではなく、構造的な矛盾に根ざしたものだったのかもしれません。

5.建前と現実──中国の“保護”の理屈とその矛盾

5-1.中国の主張:保護と繁殖のため

中国は、ジャイアントパンダの貸与を「種の保存を目的とした国際協力」と位置づけています。 絶滅危惧種に指定されていた時期もあり、国際的にもその論理は一定の正当性を持っていました。

5-2.実態とのギャップ:レンタル料と所有権

しかし実際には、年間1億円という高額なレンタル料の存在や、生まれた子どもまでもが中国の所有物とされることから、 この「保護と繁殖」という建前と、実態との間に乖離があるのは否定できません。

本来、保護が目的であれば、協力する各国が生まれた個体に対する所有権を持ち、 繁殖成果を共有する仕組みでも良いはずです。

5-3.パンダは国益の道具になっているのか

にもかかわらず、所有権は常に中国側にあり、 返還のタイミングや条件も一方的である点においては、 国家ブランドとしてのパンダを利用した外交的・経済的手段と言わざるを得ない部分があります。

こうした構造を理解したうえで、なお日本がパンダを借り続けていることの意味は、 「かわいさ」以上の判断材料として今後さらに問われていくかもしれません。

6.誰のためのパンダだったのか──今だから問い直す

今回のアドベンチャーワールドのパンダ返還は、 日本と中国の関係性、そして日本社会の“無意識の受け入れ”を改めて考える機会となりました。

もちろん、パンダは可愛い動物ですし、来園者を笑顔にする力も持っています。 しかし、その背後には、国際契約、費用負担、所有権といった“現実”が横たわっています。

「借りている」ことに疑問を持たなかった30年。 これから先も、同じ構造を続けることが本当に妥当なのか。

“パンダ返還”の報道にふれた今だからこそ、 私たちはもう一度立ち止まって考えるべき時に来ているのかもしれません。

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